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シナリオにおける人物の彫りとは? ~主人公のコンテクスト「文脈」を設定する~

「今日は人物の掘りだな」

この台詞は、彫刻家のそれではありません。
これは、日本一脚本料の高い脚本家」として知られていた小国 英雄さん(1904年7 月9日 - 1996年2月 5日)が、脚本家の橋本 忍さん、黒澤 明監督と三人で、ある作品の脚本に関する打ち合わせの口火を切った台詞でした。

ある作品とは、1952年の『生きる』です。

simura

打ち合わせは、主人公の名前を決めるところから始まります。
主人公の名前は十二、三の名前の候補から渡邊 勘治に決まります。
三人は更に、この主人公の人物設定実にきめ細かに決めて行きます。
このあたりを、脚本家の橋本 忍さんの著書『複眼の映像』 (文春文庫)から紹介します。

小国さんが、主に脚本を描く橋本さんに質問をします。「橋本君、この男の生れはどこだ」
橋本さんは次のように答えました。

・生れは、東京下町(江東区枝川辺り)
・実家は、中小の金属加工業
・家業は、兄が継いでいる
・勘治は、旧制中学を失業して19歳で公務員に

黒澤監督が念を押します。

・両親としては、家業を兄に継がせたので、弟は堅いところへ勤めさせようと経済的に無理をして旧制中学を卒業させた。

小国さんが再び質問します。「じゃ勤め先は、江東区の区役所か?」
橋本さんは次のように答えます。

・主人公は日本のどこかの市役所の市民課課長
・年齢は五十二、三歳
・三十年勤務で、自治功労賞を貰っている
・勤務態度は、責任の範囲はこなすが、それ以外の仕事には手を出さない典型的役人タイプ
・結婚は、二十五、六歳に見合い結婚でしている
・奥さんは、小柄で口数が少なく、少し腺病質な感じ
・奥さんは、早死にしておらず、男手ひとつで育て上げた息子は嫁をめとって別居している
・渡辺勘治は、中肉中背で眼鏡はかけていない。ただし仕事で書類を見るときだけ老眼鏡をかけている
・炊事洗濯はせず通いの家政婦がそれをしている
・勤め帰りに部下と縄のれんをくぐることはなく、付き合い程度の酒は飲むが自分の金を使って酒を飲むことはない。勿論、煙草は吸わない
・三十年以上、毎晩背広のズボンをきちんと延ばし、布団の下で丁寧に寝押しをする
・昼食は、いつもうどんで、その食べ方は、先ず麺を時間をかけて啜り終わると両手で鉢をかかえてゆっくり回し汁を啜る。これを二、三度繰り返し少しだけ残した汁を見つめて鉢を置く

いかがですか、ここまで設定すると主人公 渡辺 勘治の人物像がかなり立体的になってきます。
この打ち合わせの冒頭で小国さんが言った「今日は人物の掘りだな」の言葉の意味はこれだったんです。

simura2

わたしは、このエピソードと、一昨日の平田 オリザさん(劇作家、演出家、内閣官房参与、大阪大学コミュニケーションデザインセンター教授他)のとある講座でのお話しが繋がりました。

講座でのお話しは、コミュニケーションに関するお話しだったんですが、その中で、コンテクスト(Context)についての説明がありました。
コンテクスト(Context)とは、「文脈」と訳されることが多いのですが、「前後関係」とか「背景」などと訳される事もあります。

わたしは、一昨日のお話から、橋本 忍さんの『複眼の映像』で読んだ、上のエピソードを思い出したのでした。
つまり、映画の脚本家と言うのは、主人公をだけでなく、すべての登場人物のコンテクスト(Context)を、これだけ丹念に設定しているのだ。そしてプロの俳優は、さまざまなコンテクスト(Context)を、職業的に持つことのできる人たちなんだと思ぅたのでした。
そうでないと、リアリティのある演技は、出来ないですよね。

さて、このコンテクスト(Context)ですが、日本は、高コンテクスト文化の国だそうです。

context

それがいいことなのか?或いは幸か不幸なのかは分かりませんが、島国、単一民族でほぼ単一言語、多量の移民を受け入れたことも、植民地の歴史もない。これまでは、色々言葉で説明しなくてもお互いにわかりあえる「察しの文化」でやって来ることが出来ました。

しかし、時代はグローバリズムの時代。
この時代、高コンテクスト文化圏に生きるわたしたちに求められるスキルは、同情から共感へ、そして同一化から共有へ、協調性から社交性、そして会話より対話の時代になったと平田 オリザさんは説きます。

さて、このような時代を『生きる』人たちを描いた映画は、いったいどんな主人公が出てくるのでしょう?
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